体外受精について

体外受精とは、女性の卵巣から卵子を取り出し、男性の精子をもって体外で受精させて、その結果、受精・分割した受精卵を子宮内に戻して妊娠するART(生殖補助医療)の方法です。

よく、産婦人科などで超音波検査後に写真を見せてもらう事があると思います。直径20mm程の黒い影です。これが卵胞です。でも、これは卵子ではなくて卵胞です。卵子はその中に顕微鏡でしか見えないくらいの大きさで存在します。

女性はまず生まれたときに100万個の卵子を持って生まれてきます。そして、生理が始まるころには、30万個くらいにまで減ります。卵子の数は増えることはありません。そこから毎月1個ずつ排卵していくのです。後からも説明しますが、20歳くらいの女性は生理が始まった頃に150個の卵胞が成長し始めます。そして、1個のみが排卵まで成長するのです。これが、閉経(日本人で51歳と言われています)まで続きます。生理が来たときに成長を始める卵胞は年齢と供に減少していきます。20歳では150個と言われていますが、40歳を超えると510個まで減少すると言われています。よく、排卵誘発剤などを使うと閉経が早くなると言うような噂を聞きますが、そんなことはありません。20歳で150個成長を始める卵胞が12ヶ月で1800個です。その数が閉経まで続いたと仮定しても、31年で55800個です。生理が始まる時には30万個持っているので、早く卵子がなくなることはありません。また、閉経する頃には、1000個ほどの卵子がまだ卵巣に残っていると言われています。

まず、女性の卵巣から取り出す卵子の数の目標は、左右で10個です。ただし、本来女性は1個しか排卵しないので、薬を使用して卵を育てていきます。

まずは、通常の排卵について説明します。頭の中に下垂体という部分があります。そこからFSH(卵巣刺激ホルモン)、LH(黄体化ホルモン)と言うホルモンが分泌しておりそれが排卵や生理をコントロールしています。FSHは卵巣の中で、卵胞を育てるホルモンです。LHというのは成長した卵子を排卵させるホルモンです。まず、生理が来たときに、卵巣内で卵胞が成長を始めます。しかし自分の下垂体から出るFSHの量では、互いの卵胞が競争をして勝ち残った1個、これを主席卵胞と言います、のみが排卵まで成長して排卵に至ります。この際に、卵胞からはエストロゲン、卵胞ホルモン、女性ホルモン(どれも同じ意味ですが)が分泌されます。このホルモンが排卵直前には200300pg/ml程になります。すると下垂体は卵胞が成長したと判断して、LHを分泌します。このLHが分泌されてから約40時間後に排卵します。

20歳くらいの女性は約150個の卵胞が、生理が始まった時に成長し始めます。この卵子は自分の下垂体から出るFSHでは149個がしぼんでしまいますから、FSHを直接注射して卵胞を育てていきます。目標は10個です。生理が来た日を1日目として、3日目から注射を開始します。5日間連続で注射をして超音波検査します。すると、1112mm位まで成長した卵胞が左右に確認できます。そして、その日と翌日はまた注射をします。そして、また超音波検査します。すると、一番大きな卵胞が14mm位にまで成長しています。その日からは、毎日注射と超音波検査です。そして一番大きな卵胞が18mm位になったら採卵を決定します。採卵を決定したら、その日の夜9時に今度はLHの注射をします。すると、40時間後には排卵してしまうので、36時間後の翌々日の朝9時に採卵します。これが、体外受精の採卵です。

この採卵方法には大きく4つの方法があります。それは、卵胞の大きさが14mmを超えてくると分泌するエストロゲンの量が増えてきます。1個の卵胞から排卵近くで200300pg/mlまで上昇するので、10個卵胞があると3000pg/mlまで上昇します。下垂体は、「今回は採卵するので排卵させてはいけない」と言うことはわからないので、エストロゲンが上昇してくるとLHを分泌させ始めます。このLHが卵胞の中の卵子を成長させるので、採卵したときに過度に成長した卵子(変性卵)が取れることになってしまうのです。なので、LHを上昇させない事が重要になってきます。その方法が3つあります。まず、通常の方法は、卵胞が14mm位になったときから、GnRHアンタゴニストという下垂体からFSHLHを両方分泌させなくする注射を使用することです。これが、24時間しか効かないので毎日の診察、注射になるのです。2つめはGnRHアナログという点鼻薬を使用する方法です。これは、注射を開始する生理3日目から開始する方法と、生理が来るであろう1週間前から開始する方法があります(Short法とLong法)。この3つがLHを押さえる方法としてあります。もう一つは、低刺激法と言われる方法です。本来女性は1個しか排卵しません。そこに、FSHを注射して10個採卵しようとするのですから、言葉を換えて悪く言うなら病気にしているのと同じです。なので、どの方法を行ってもいい卵子(後で説明します)が取れない人がいます。体に合わない人です。そんな人には、FSHの刺激を少なくして23個の卵子を取ることを目標とした方法もあります。それと、女性は年齢を重ねると生理が始まった時に成長し始める卵胞の数が減少します。そんな人に、FSHを毎日注射しても卵胞は育ちません。そういう人にも、低刺激法という方法を行います。また、どうしても薬に合わないという人は、まったく薬を使わないで行う自然採卵法もあります。ただし、これは必ず1個しか採卵できません。

では、どうして10個の卵子を採卵しようとするのでしょうか。一つはコストパフォーマンスです。体外受精は、40万~50万のお金がかかります。それで、取れた卵が1個よりは10個取れた方が、コストパフォーマンスがいいにきまってます。もう一つは、採卵した卵が10個あったとします。1回のET(胚移植)では、戻せる卵は1個か2個までなので、1回目のETで妊娠したら、その後10ヶ月の妊娠期間、赤ちゃんが生まれた後1年間は忙しい期間が続きますが、妊娠してから2年ほど経ったときに2人目をそろそろ考えようかと言う話になります。その時に、前回の採卵で採卵した卵子を残しておけば、また生理3日目から注射をしたり、診察を受けたりせずに2人目を妊娠することができるのです。そのため、考え方はそれぞれでしょうが通常は10個の卵子を取ることを目的として治療していきます。本人の考え方はそれぞれなので10個よりも23個を採卵したいという方はその方法を行います。

ここで、採卵した卵子についてですが、受精卵の染色体異常は通常より510倍に増えると言われています。本来1個しか排卵しないのに10個採卵します。本来の1個以外、残りに9個は、本当はしぼんでいく卵であったわけです。そこにFSHの注射を行って採卵するのでそうなってしまいます。ただし、染色体異常をもった赤ちゃんの生まれる可能性に関しては上昇しません。染色体異常をもった卵子は、最初から着床しなかったり、妊娠初期に流産になったりします。なので、染色体異常をもった赤ちゃんの生まれる可能性に関しては上昇しません。

次に精子です。

精子は、採卵当日に持参することも、前もって凍結保存しておくこともできます。ただし、凍結保存した精子は、約60%しか解凍したときに生き返りません。なので、一番いいのは1週間ほどためた精子を採卵当日にもってくるのが一番いいです。精子の処理に関しては、洗浄した精子を、培養液を入れた試験管の底にゆっくり沈めます。すると、元気に動いている精子のみが培養液の上の方に自分で泳いで上がってきます(Swim-up法)。そこから、20万匹/ml程集めて精子の溶液を作り、採卵した卵子をその中に入れます。これが自然に授精させる通常の体外受精です。20万匹/ml集まらない時には、顕微授精(精子を強制的に卵子に注入する)を行います。

次に卵子の分割です。通常の体外受精や顕微授精を行うと翌日に前核という核が見えます。これが授精したという証拠です。すると、卵子は2日目には4分割。3日目には8分割、4日目には桑実胚、5日目には胚盤胞という風に成長していきます。10個卵子が取れても10個とも胚盤胞にまで成長することはありません。せいぜい3個程です。残りはと言うと、5日間培養したのに、4日目相当の桑実胚までしか成長しなかったり、3日目相当の8分割までしか成長しなかったりします。できるだけ多くの胚盤胞を採取することが体外受精の目標です。できるだけいい卵子を採卵するというのは、このことです。どれだけ卵子を採卵しても、すべてがそこそこの卵子であれば妊娠が厳しくなります。

次に採卵についてです。採卵は、4階の採卵室で行います。まず点滴を取ります。これは、側管から麻酔薬を入れるためです。麻酔をせずに採卵することもできます。麻酔をしない人は、点滴は取りません。次に腟内を洗浄します。腟内にはたくさんの常在菌がいますが、腹腔内には菌はいません。菌が腹腔内に入ってしまうと腹膜炎を発症してしまうからです。その次に、卵胞があることを確認して採卵します。卵巣には「痛い」事を感じる神経はありません。採卵する際には、卵胞を穿刺する時に腟壁を針が貫通します。これが痛いのです。ただし、23個を採卵する際には、麻酔をせずに採卵する人も大勢います。超音波で確認しながら卵胞を穿刺して、中の卵胞液を吸引します。その際に、内側の卵子が卵胞液と供にシリンジに吸引されます。その吸引液を培養士が、顕微鏡で確認します。卵子を確認できたら次の卵胞を穿刺していきます。これを繰り返します。たまに、卵子がないことがあります。その際には、培養液を卵胞内に注入して再度吸引します。これを、10回ほど繰り返します。それでも卵子がなかった時には、次の卵胞を穿刺します。採卵は、10個くらいなら15分くらいで終わります。

採卵後は、安性室のベッドで安静にしていただきます。麻酔をしなければ、すぐに帰れますが、麻酔をした時でも昼の12時頃には帰れます。帰る際には、麻酔をした際には自分で車を運転しては帰れません。バス、タクシー、電車で帰るようにしてください。

合併症についてですが、すべての合併症を合わせて0.08%程あると言われています。採卵後の腹腔内の出血や、腹膜炎などです。それを認めた際には、それなりに対応します。

以上が、当院で行っている体外受精です。わからないことがあったらいつでも質問してください。

関連記事

  1. 院長挨拶

  2. 初診時の検査

  3. 精子の凍結について

  4. タイミング法

2024年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

カテゴリー

最近の記事 おすすめ記事
  1. タイミング法

    2020.03.20

  2. 初診時の検査

    2020.03.14

  3. 院長挨拶

    2020.03.7

  1. 登録されている記事はございません。
PAGE TOP